研究分野

複雑な進化・生態学動態

生物の進化・生態学動態は非常に複雑であり、非直感的な現象を引き起こす。例えば、世界には多様な生物が存在しているが、多様な生物は簡単には共存できないことがこれまでの研究で知られている。また、一見すると自分が不利になるような協力行動はヒトから微生物までさまざまな生物が引き起こす。さらに、進化は遺伝子だけではなく文化にも生じ、文化進化と遺伝子進化、周囲の生態系は互いに影響しあうことが予想される。このような複雑な現象がどのように理解・説明できるの、あるいはどうすれば動態を予想・制御できるのかについて、数理モデルや実験室実験、データベース解析を通じて研究してきた。

 

主な興味は協力の進化、群集動態、文化進化、行動・進化実験である。

協力の進化

一見すると自分は損をして他者に利益を与えるような協力行動はヒトだけでなく、微生物や昆虫などさまざまな生物で見られてきた。例えば、細胞性粘菌 Dictyostelium discoideum は三種類の増殖形式を持つが、そのうち二つは協力行動である。一つ目の協力行動は無性生殖的な子実体形成であり、もう一つはマクロシスト形成と呼ばれる有性生殖である。どちらも多数の細胞が集合して一部の個体が次世代を作り残りの個体は死亡するという極端な協力行動である。この二つの協力行動が存在することで、互いに協力の維持に貢献することを数理モデルと簡単な実験を用いて明らかにした。参考:Shibasaki et al (2017), Shibasaki and Shimada (2017, 2018).

また、協力行動は環境を介して行われることもある。例えば、環境中の有害物質の分解は協力行動の進化として理解できる。この時、協力行動の利益は環境中の有害物質の量に応じて決まる。したがって、有害物質分解の進化は環境中の有害物質量の変化によって複雑な動態を見せる。参考: Shibasaki and Mitri (2020).

群集動態モデル

自然界には多様な生物が共存しているが、そのような共存は簡単に起こらない。例えば、同じ栄養を取り合う生物同士では、単純な状況では一方が他方を排除することが知られている。しかし、環境変動や空間構造によって状況は一変する。

例えば、環境変動と人口学的な摂動が組み合わさると、競争関係にある二種のうち「弱い」方の種が生き残ること。そしてこの弱い方が生き残る確率は環境変動に対して複雑なパターンをとり種多様性もそれに応じて変化する。参考: Shibasaki et al (2021).

さらに、微生物の相互作用は環境中の栄養や有害物質の濃度を変化させて間接的に行われることが多い。このような場合、河川や腸内の上流に位置する種は下流に存在する種に一方的に影響を与えることになる。そこで上流の微生物群集が下流の群集の安定性にどのように影響を与えるのかを解析した。 参考:Shibasaki and Mitri (2023).

また、多様性は多次元である。例えば食物網における栄養段階の高さとして食物連鎖長が用いられる。食物連鎖長の決定要因として様々な環境要因が提案されてきたが、野外研究では結果が一貫していない。数理モデルとデータベース解析の結果、環境に応じて種数がどのように変化するかによって、環境と食物連鎖長の関係が変わることが示唆された。 参考: Shibasaki and Terui (2024).

文化進化

進化は遺伝子を介してだけでなく文化を介しても行われる。そして、文化進化は遺伝子進化や周囲の環境とも互いに影響し合っていることが示唆されている。例えば、人の言語は現実に存在しないもの(例えば空想上の生物ドラゴンなど)を語ることができるが、民話の中の生物と現実の生物の空間上の分布が非常によく重なることを明らかにした。つまり、現実の生物とその分布を規定する環境要因が人の文化に影響を与えていると考えられる。 参考:  Shibasaki et al (under review)

また、アイディアの多様性はイノベーションに不可欠であるが、人々の交流が密になる程多様性が失われてイノベーションが妨げられるということが先行研究で報告されている。そのように考えると、昨今の大規模言語モデルなどの人工知能の発展は人類のイノベーションを妨げる可能性もある。参考 Nakadai, Nakawake, and Shibasaki (2023).

 

進化実験

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